「一双の物語」 for Troll in the Park 2018
13篇の詩の一部を手に取って参加してくださった皆様、どうもありがとうございました。以下に全文を公開いたします。
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「一双の物語」
聞いてほしいんだ
僕と僕の大切な人の事を
僕らは一つだった
僕は君で、君は僕だった
青い空と蒼い水
たゆたう中で境目を探した
それがはじまり
僕らは波の音が絶え間ない場所にいた
ここよりもずっと遠くにね
たくさんの息吹がまわりでひしめき合って荒々しくもにぎやかだった
あるとき、僕らを強く細く呼ぶ声が狭間から聞こえたんだ
「 」
その声をたどって、暗がりを進むように長い旅をした
声に近づく
だんだんまばゆくなる
ここだ、と君は言った
遅野井、とよばれたこの地には、人々が耕す田が幾重にも広がっていた
ああ、この為にここにたどり着いたのか
陽の輝く中、そう思った
守るべき場所があるのはよい
僕と君は語った
手を携えて、ゆっくり、ゆっくり、この地に水をたたえ、根をおろそう、と
多くの人がこの地に潤いを求めてやってきた
幾度となく僕は雨を降らせ、君は池を湧水で満たした
いろんな名で呼ばれた。
「 」「 」「 」
多くの時が流れた
いつからだろうか、薄い帳に閉ざされたように、君の声が少しずつ遠ざかっていったのは
つないでいたと思っていた手が交わらなくなったのは
いまや君を呼んでもかすかな気配
だから、伝えてほしいんだ
雨の日は君への音色なんだと
晴れの日は君とこの地へたどり着いた日を思っていると
閉ざされても、永にこの地を潤そう
そう、君は僕と一双のこの池の主なのだから
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Instagram tag: #一双の物語
text and photo by fumika morito.
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